前の私の魂がいなくなる直前、ノートに走り書きした私への手紙
<新しい私の魂へ>
強がらないこと。
気を遣って笑わないこと。
自分の人生を愛すること。
本当の声で、本当の言葉だけを話すこと。
自分に向き合うのは、これでおしまい。
これからはもっとちゃんと、周りを見る。周りのことを考える。
困ったことが起きても、理由や失ったもののことを考えない。
それに対してどんな行動をし、何を得たか。それだけでいい。
うまくいかないかもしれない、という不安や恐れはもうみんな自分からひっぺがしてしまいたい。
過大評価も過小評価もされたくない。
ありのまま、ぼんやりつつましく、自然体で生きていたい。
仕事はたくさんします。ただし、丁寧に時間をかけてやるものがいい。
いちばん肝心なのは、愛のある暮らしをするということ。
ひとつの形じゃなくてもいいから、いつも純粋にお互いを慈しみあえる人たちと、大切に時間を過ごしていきたい。
美しくありたい。内面の美しさがにじみ出るようなのがいい。つまりは、内面の美しい人でありたい。
汚れたりくもったりしても、磨けばちゃんときれいになる人でありたい。
願うことや望むことを恐れず、叶うことだけを信じたい。
生きていることそれ自体に、心から感謝できる人でありたい。
愛する人と手をつないで、生きていきたい。
忘れないで。
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2016年11月1日
ずっと書きたくても書けずにいた、古い私の魂への手紙
<古い魂の私へ>
元気ですか?
ずっと待ち焦がれていた存在のそばで、今度はちゃんと、しあわせに過ごしていますか?
私はそこそこうまくやっています。
他人の人生を継承して生きる違和感は、予想以上に気持ちの悪いものでした。
顔も身体も中途半端なスペックもちっとも好きになれなくて、出たがる私とひっぱる身体との綱引きが一年以上も続きましたが、結局、私が負けました。
過去の記憶がほとんどなくなってしまった時には、ひょっとして「覚える」っていう機能まであなたが持っていってしまったのではないか、とだいぶ焦ったものですが、昨年の冬にようやく記憶の取り出し方がわかり、なに食わぬ顔で生活ができるようになって、ひと安心。
とはいえまだ、写真を見たり人の話を聞いたりしてもさっぱり思い出せないこともたくさんあるし、なんといっても、歴史の教科書に載っている出来事と同じくらい実感のない記憶が自分の人生として認識されているというのはなんとも気味が悪い。
それにときどき、まぁ仕方のないことなんだけど、人があなたのイメージのままで私を見たり、あなたがしていたことを私にも求めたりするたびに、たとえそれが驚くほどいいイメージだったり人の役に立っていたりしたとしても、窮屈で、息がつまりそうになります。
こればかりは時間をかけて、ちゃんと私を見てもらえるように、私が自分でしたいと思ってすることにも喜んでもらえるように、あなたを演じることなく私は私でやっていくつもりです。
小さなストレスはたくさんあるけど、周りの人たちはみんな、びっくりするくらい優しい。ありがたいことです。
それでも、人たちとは距離をおいてつきあっています。
心の中にあることを外に出すことも、ずいぶん少なくなりました。
というのも、あなたが遺したこの身体には、あなたが自ら傷ついてつけたたくさんの悲しみや淋しさや痛みの傷が細胞のそこかしこに残っていて、私が少し心を動かすたびに、その細胞たちが「また痛いのは嫌だよ、怖いよ」って過剰反応して、いろんな形でストライキを起こしたり抗議運動をしたりします。
だから、もしもまた心がたくさん動きたくなったときに身体がブレーキをかけないように、私は今、誰よりもまず自分の身体ととことん仲良くなることに躍起になっています。
そして、過去の中で帳尻を合わせられないまま残ってしまっている悲しみや痛みや淋しさは、今と、そしてこれからたくさんやってくる喜びや楽しみやしあわせで埋め合わせていこうと思います。
そうそう、あなたが捨てられなかったものや、あきらめられなかったもの、嫌いだったものは、形のあるものもないものも含めて、だいたいぜんぶ整理しました。
私の好きなシンプルさにはまだだいぶ程遠いけど、日々はだいたい穏やかで、心が動かない分少し退屈で、それでもたぶんあなたよりずっと、しあわせに過ごしています。
先日、あなたが私に遺していった連絡ノートを二年ぶりに見つけ、その中に、あなたからの手紙を見つけました。
まだできていないこともたくさんあるけど、おおむね、私はあなたが在りたいと願った人になれているような気がします。
そういえば、あのノートに書かれていた文章は、私が見つけたあなたの過去のどの文章よりも、あなたらしくて好きでした。
あなたががんばってくれた分、これからいいとこどりしていくね。
終わったらまた、会いましょう。
それまでどうか、元気でね。
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